2011/09/30

Tescoの撤退を考える



















2011年8月31日、英国最大手のスーパーマーケット「Tesco (テスコ)」が日本撤退を発表した。日経新聞によれば、129ある店舗のうち、半分近くが赤字であったということだ。2003年に進出をしたが、わずか8年での撤退となってしまった。世界第2位の小売チェーンであるカルフールに続き、世界第5位ののテスコもまた日本市場で失敗する形になってしまった。

著者はイギリスで2年間生活したことがあり、その時にはテスコを愛用していた。日本帰国後も、徒歩圏内にテスコが3店舗もあるので、日本でもテスコを利用することが多かった。今回は日英でテスコを利用したことがある一消費者の観点から、今回の撤退劇の裏側を分析しようと思う。




◆イギリスにおけるテスコ

英国でスーパーマーケットといえば、今回の主役である「テスコ」と、米ウォルマート資本で近年シェアを伸ばしている「Asda」、創業約150年の歴史と伝統のある「Sainsbury's」、そして安さに定評がある「Morrisons」のBig Fourと呼ばれる企業が有名だ。それぞれのマーケットシェアは2008年現在、30.9%、16.8%、16%、11.8%で、4大チェーンで約3/4のシェアを占めている。

30%以上のシェアを誇るテスコは、英国内で2715店舗、29万人以上の従業員がおり、その売上は408億ポンド(5兆円以上)とイギリスでも最大手企業の一つだ。テスコの特徴として、店舗形態・規模によりブランド名が異なる。以下にメジャーな3タイプの店舗をあげよう。


・Tesco Express
必要最低限の品揃えの小型店舗で日本でいうコンビニエンスストア的位置付け(イギリスには日本のようなコンビニチェーンはほとんどない)。ロンドンなどの都市部や、ガソリンスタンドと一体化した場所に多い。

・Tesco Metro
前述の店舗よりももう少し大きい店舗。日本の都市部の駅前にあるような一般的なスーパーに近い。英国でも繁華街やメインストリートの近くに店舗があることが多い。

・Tesco Extra
郊外型のハイパーマーケット。日本でいるイオンやイトーヨーカドーに近い。食品だけでなく家電や衣料品も販売している。日本の場合、例えばイオンの中にさまざまなショップ(ユニクロ等)が入っていることが多いが、そのようなことはなくテスコの商品として売れられている。


その強力なブランド力を生かして、英国では小売以外にも金融(Tesco Banking)や携帯電話プロバイダ(Tesco Telecoms)、ガソリンスタンドなどを運営している。まさに英国に根付いたブランドであり(その反面英国内でもアンチテスコ派は多いが)、生活にかなり密接している。
<出典:Wikipedia>




◆イギリスにおけるテスコの成長要因

1990年代前半まで、テスコはSainsbury'sに次ぐ業界No.2だった。わずか15年弱の間に逆転をしてダブルスコアでシェアを独占するようになった原動力は、顧客ロイヤルティ戦略である。その戦略のコアとなっているのが「クラブカード」というポイントカードだ。仕組みとしては5ポンドごとの買物に1ポイントが賦与され、50ポイント貯まれば2.5ポンド分のクーポンが貰える。さらに年4回クーポン付きの会報誌を送付するというもの。今では流通店舗のこのようなポイントカード/CRMは珍しくないが、当時テスコは他社に先駆けて導入。さらに導入まで2年以上2億円を費やして入念な調査・開発を行っている。そのきめ細かな戦略が功を奏し、1995年の導入2週間で会員700万人を獲得。その年にSainsbury'sのシェアを抜き業界トップに躍り出た。またクラブカードを利用した顧客情報の分析・商品開発や、いち早くオンラインショッピングに参入し英国では唯一黒字を達成していたり、クラブカードが基盤となりその後のビジネスを拡大している。その辺りの事情についてはここJetroのサイトに詳しくは書いてあるため以下省略する。


また、クラブカードの栄光に隠れがちだが、テスコは優れたサプライチェーンも構築している。さらにコスト管理の徹底のために「ファクトリー・ゲート・プライシング」と呼ばれる独自の物流システムももっている。国内に数十箇所のディスレリビューションセンターを持っており、ルート設定、到着時間、在庫などを厳しく管理している。さらにはRFIDタグを利用した在庫管理などの先端物流システムにも積極的である。

経営戦略も非常にしっかりしており筋が通っている。例えばJetroの資料によるとテスコの成長戦略は以下の4つを掲げており、以下のような感じだ。

① 中核となる英国事業の強さを維持
英国事業は引き続き中核市場であり、価値と選択肢を消費者に提供する戦略で市場シェアの拡大を図る。2002/03 年度はライバル他社の売上高が伸び悩む中で、前年度比7.9%の売上高増加を達成した。 
② 非食品分野の拡大テスコは英国内の非食品分野の販売市場で約5%のシェアを持っている。非食品分野の取り扱い商品には家電製品、ホームエンターテイメント製品、衣料品、家庭用品、キッチン用品、家具などがあり、海外店舗でも積極的に導入している。 
③ オンライン販売などの販売サービス業の拡充消費者の購買習慣の変化に合わせた新製品・サービスを提供する。強力なブランド力を活用して、90 年代後半から業務の多角化に乗り出し、金融商品でも黒字化を達成。ネット販売も急成長しており、食品のネット販売では世界最大を自負する。さらに 2003年には通信事業にも進出し、携帯電話では大手の O2 と折半の出資で合弁会社を設立して「テスコ・モバイル」を展開し、固定電話ではケーブル&ワイヤレスと組んで家庭向けサービスに着手した。 
④ 国際展開中 ・ 東 欧およびアジアで積極的な店舗拡大を行なっており、海外の総売場面積は2002/03年度には全体の45%に達した


経営陣が非常に優秀であり、「Every Little Helps」というブランドスローガンに忠実なビジョンと目的を持って、企業全体がそこに向かって前進しているようなイメージを持つ。






◆日本での失敗の背景

そんな優良企業がどうして日本で失敗したのだろう。マスメディア各社による報道によれば「日本の消費者に受け入れられなかった」「外資は日本の市場を理解していない」等の記事が目立つ。どれもその通りだと思うが、もう少し細かい部分を考えてみたい。


1. 差別化の失敗








「2003年に「つるかめランド」を展開する「シートゥーネットワーク」を買収して日本へ進出したテスコ。同社のサイトを見ると、買収後も「つるかめランド」ブランドをテスコへと切り替えるわけではなかったようで、出店計画等は正直よくわからない。テスコブランドとしては「Tesco Express」と「Tesco」の2ブランドがある。その2ブランドに関してもWEBサイト等に明確な違いは記載されていない。Expressの方は英国のロゴをそのまま使用したもので、Tescoは英国のものとは異なる赤をベースとした日本版のロゴになっている。都市部の小型店というくくりで出店していたようだが、細かな店舗形態に制約はなかったようである。
都市部の小売小型店の競争が非常に厳しいことは言うまでもない。特に都市部ではコンビニも乱立しているため、小型スーパーにとっては、競合企業が非常に多いことになる。
著者の近所にある赤のTescoも小型店だ。コンビニを一回り大きくしたくらいのサイズで、もともとは地元に密着していた「ユネスコ」という小さなスーパーだった。1年半位前にTescoへと変わった。確かに内装も新しくなり、Tescoブランドの商品も入荷はしていたが、とにかく近隣に競合店舗が多い。この店舗に限って言えば、半径1km以内に「いなげや」「サミット」「ライフ」「キッチンコート」「みらべる」そして「つるかめランド」と6店舗ある。それ以外にもコンビニが8店舗ほどだ。確かに安い商品は多かったが、かなり苦戦していたようである。


2.日本におけるブランディング
Tescoがイギリスのスーパーであり、世界でトップクラスの小売業であることを、どれだけの日本人が知っているのだろうか。おそらく広告宣伝活動をほとんどしていなかったであろうテスコは、知名度が圧倒的に低かったように思える。特にスーパーマーケットのような小売業においては、ブランドは非常に重要だ。安いというのがブランドの切り口になる場合が多いが、日本の場合は主婦の多くが週に数回利用するような使われ方が多いため、信頼やフレンドリーさ等の切り口でブランドを確立することができれば、顧客離れは起きにくいと思われる。
また品揃えに関しても本家イギリスの輸入商品は多少なりともあったが、かなり少なかった。テスコジャパンのPB商品も取り扱っていたが、品揃えという観点からもブランディングに直結した戦略が必要だったのではないだろうか?






◆日本再参入に向けて

テスコは今回の教訓を生かし、数年後には是非とも日本に再参入して欲しいと願っている。イケアもその昔一時撤退をしたが、見事に返り咲いている。その場合、どういう点に注意したら良いのだろうか、少し考えてみたい。


1. 差別化&ブランディング
上記で分析したような失敗の背景「差別化」「ブランディング」を徹底すべきだと考える。差別化という点においては、日本の小売業界をさらに分析することが第一であると思うが、世界で戦っている小売点という利点を生かし、品揃えも海外モノを多く用意する、クラブカードという最高の武器を活用するなど、「激安」以外のテスコならではの特色を打ち出すべきだと考える。また、店舗に関しても、都市部ではコンビニや競合が多いため、郊外型の大型店舗の方が好ましいのかもしれない。ブランディングに関しても、世界的なスーパーマーケットチェーンであることをコミュニケーションでしっかりと伝える、つまり世界のテスコを訴求することが必要であろう。おそらくモデルケースとしては日本で定着しつつあるコスコトに近いと思うが、そことも差別性を図り、独自のスーパーマーケットモデルを構築しなくてはならない。ただ、テスコにはその素養は充分にあると考える。


2. ジョイントベンチャー
日本参入に伴いテスコはつるかめを運営するシートゥーネットワークを買収する形で参入したが、いきなり買収という形ではなく、ジョイントベンチャー(JV)で参入すべきだったのだろう。その際、相手先企業は非常に重要だ。
イギリスの次に成功しているテスコがあるのは、実は韓国である。1999年に参入したが、250店舗以上年間50億ポンドの売上になるまで成長しているようだ。テスコが韓国に参入する際に提携したのがサムスンであった。サムスンと提携して2店舗のハイパーマーケットからはじまったテスコは、わずか10年足らずで韓国第二の小売業となった。日本とは状況は異なるだろうが、やはりリスクの少ないJVで参入し、かつその国での影響力・規模の大きい企業と提携した方が、その後の発展に大きな差を生むことは間違いないだろう。






◆撤退の裏側

今回の撤退はあまりにも早すぎると感じていたが、9/2付けの日経新聞のWEB版ではこう分析していた。


テスコにとってアジア地区の売上高の4%ほどしかない日本事業を手放すのは今が千載一遇のチャンスかもしれない。歴史的な円高が日本売りを誘うのだ。テスコが日本進出を発表した03年6月には1ポンド200円近かった。それが今は125円前後だ。強いポンドで日本の小売業を買収し、今度は強くなった円で売却する。
 テスコによるC2の買い付け価格は1株3400円。1ポンド200円で換算すると、17ポンドになる。仮に今回、同じ3400円で売却できたとすれば1ポンド125円換算で27ポンド2ペンスになる。テスコ日本法人は業績不振だからこんな高い企業価値はないと思われるが、撤退のタイミングとしては条件が整っている。


これを読んでテスコらしい決断だと思った。埋没費用を考えても、今が最も事業から撤退するには最適のタイミングであったのだろう。個人的には残念だが、これがビジネスである。ただし、今回のブログでも書いたように、将来的には是非とも再参入してほしい企業である。


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